mono-logue

2015年5月25日 21:00

 

第10回大阪アジアン映画祭で出会ったハンガリー映画

文/須見登志美
第10回大阪アジアン映画祭で出会ったハンガリー映画
『牝狐リザ』

riza_1.jpgQ&Aに登壇したウッイ・メーサーロシュ・カーロイ監督
 会期中の来場者数が9,300人と、昨年の3割増の大盛況のうちに3月16日に終了した第10回大阪アジアン映画祭。コンペ作品を中心に7本の映画を鑑賞したが、その中に2カ月以上たった今でも時々、劇中に流れていた音楽が頭の中で鳴り響いてしまうほど心を掴まれてしまった作品がある。ハンガリー映画『牝狐リザ』だ。

 ハンガリー映画といえば、タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』(11)、ヤーノス・シャース監督『悪童日記』(13)などが日本で公開されているので、どうしても重苦しいイメージを持ってしまうが、着物姿の白人女性の不気味な笑みを浮かべているスチールや作品紹介にある日本人歌手トミー谷という冗談のような役名......。 いったいどんな映画??? と興味深々で上映に望んだ。きっと客席にいた8割の観客も私と同じ気持ちだったはず。

 上映前に挨拶のため登壇した監督自身から「この映画はハンガリーの資本主義に対するイノセンスを表現している」と説明があった。「そうか、そういえば私はハンガリーという国についてほとんど何も知らないなあ」ということに思い至りながら、映画が始まった。

 主人公のリザ(モーニカ・バルシャイ)は看護師。寝たきりの日本大使未亡人を看護しながら地味に暮らしている。友人といえば、何故かリザにだけ姿が見える往年の日本人歌手トミー谷(デイヴィッド・サクライ)の亡霊だけ。愛読する日本の恋愛小説と同じことが自分に起きるのを夢見ている彼女は、30歳の誕生日を機に、小説と同じように運命の恋に出会うため行動を開始するのだが、リザを独占したいトミー谷の陰謀で、彼女の周りでは次々と不審な事故死が発生する。次第にリザは、自分には狐の呪いがかかっていて、そのせいで自分に好意を寄せる人は皆死んでしまうのだと思い込むようになり......。

 作品はハンガリー映画らしい(?)湿気の多い沈んだ色調とレトロなしつらえの画面の中で、次々と人が死んでしまうサスペンスホラーだ。しかし、登場人物たちは皆変わり者というか、ある意味イノセントなので、そのイノセンスゆえに生じる、現実世界とのズレがツボにはまってしまい、随所で思わず笑ってしまうのだ。

 もちろん、おかしな登場人物の中でひときわ異彩を放っているのがトミー谷。今は亡き日本のスターという設定の彼は、襟なしで光沢のある派手なブルーグリーンのスーツを着て、踊りながら不思議な曲調の日本語の歌を歌いまくる。ハンガリー語で話されている映画の中から、ずっと(へんな)日本語が聞こえてくるのはなんとも言えない妙な感覚だ。とはいえ、ハンガリー映画という馴染みのなさが薄まって親しみが湧いてくる。曲はどれも、なんとな~く70年代日本の歌謡曲風なのだが、実は全てこの映画のために書き下ろされたもので、作曲を担当したのはErik Sumo Bandのアンブユシュ・デヴィシュハージだ。メランコリックなメロディやなつメロ風アレンジにぐっとハートを掴まれる。その中の1曲「Dance Dance Have A Good Time」をYouTubeのEricSumoチャンネル で実際に聴くことができる。映像にはトニー谷やリザも登場し、映画のPVにもなっていて楽しい。百聞は一見にしかず。

 日本人コメディアン、トニー谷を文字って名付けられたトミー谷を演じているデイヴィッド・サクライは、日本人の父とデンマーク人の母をもつアクション俳優。身長180cm、1979年生まれの36歳。トニー谷より断然イケメンだ。でも何故トニー谷? というのは誰しもが思う疑問。上映終了後に行われたQ&Aコーナーで当然そのことが質問され、「日本の古い音楽が大好きで、日本のレコードをたくさんコレクションしている。その中で気に入って」と答えていた。そうか。歌手なのか。私にとってトニー谷といえば、ソロバンをかき鳴らしながら「あなたのお名前なんて~の?」とせまったり、英語まじりの独特な喋り方をするコメディアンでしかないので、監督の頭の中にあるトニー谷とは、きっと全く別人なのだろうなあ。
 
 今回は、大好きなタイ映画も、イー・ツーイェン監督も、チェン・ボーリンもさしおいて、心に残り続けた『牝狐リザ』。先ごろ行われたブリュッセル国際ファンタジー映画祭2015で観客賞を受賞したし、見る人の心にグッと入り込む力を持った"変な映画"ということは間違いなさそうだ。

■「牝狐リザ」 (2014年/ハンガリー/98分)
監督:ウッイ・メーサーロシュ・カーロイ
出演:モーニカ・バルシャイ、デヴィッド・サクライ、ピロシュカ・モルナール、ゾルターン・シュミエド、ガーボル・レヴィツキ