mono-logue

2015年4月 1日 11:23

 

緩やかにチェンジ! SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
デジタルの普及からクリエイターのための映画祭へ

文/関口裕子

 必要。それは、ものごとが継続する絶対条件だ。また誰かに必要とされることは、無理なく経済をまわす原動力となる。

 去る3月18日(水)、日本外国特派員協会で「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭クリエイター交流会」が開かれた。クリエイター交流会の目的を、7月18日(土)からのSKIPシティ国際Dシネマ映画祭開催を前に、12年目を迎える映画祭の歩みを振り返りながら、これから目指す方向を明らかにし、その目標を映画祭から巣立った若きクリエイターらと共有し、支援する反面、目標のけん引役を果たしてもらうためのもの。そう受け止めた。映画祭という場を活性化させていくために行う、運営側とクリエイターのギブ&テイクの場なのだと。

 同映画祭はここまで、デジタルシネマとともに生まれ、成長してきた。瀧沢裕二映画祭ディレクターはその歴史を飾ることなく語り、その上で展望を述べた。

 「埼玉県より映画祭開催の採択が降りたのは、2003年4月。すぐさま5月のカンヌ映画祭に飛び、ソニーが設えたボートの上で、デジタルシネマの説明会を行いましたが、皆さんの認知は"安い予算でテレビカメラを使って作る映画"という程度でした。それからの4年はデジタルシネマの認知・普及の毎日。本来、2005年にはデジタル時代の到来を迎える予定でしたが、2K、4Kのハードの普及体制が整いませんでした。そして迎える映画祭にとって大きな転換点となった2008年。まず長編部門の応募規定を3本以内の新人としました。なぜなら本来のデジタルシネマの形での応募は、若手が圧倒的に多かったからです。当時、シネアルタHD(映画撮影用デジタルビデオカメラの名称)を使った撮影は、フィルム撮影の補助だと考えられていたからでしょう。しかし若い監督はそのような偏見なく、機材を思う存分使い、作品そのものを追求していったのです。質にこだわった作品選びによって、短編部門の質は飛躍的に上がりました。そして訪れた4K、レッドの時代。2013年、劇場設備のデジタル化にともない、撮影も必然的にデジタルが主流になっていきました。やっとデジタルシネマの時代が到来したのです。それとともに当映画祭のデジタルシネマの普及という役割は終わりました。
 では我々のこれからの役割はなにか? と見回しますと、映画祭の本来の目的である新人クリエイターの発掘という役割がまだ残っていました。新人監督を発掘して育て、送り出して行くという崇高な役目。SKIPシティが持つインキュベーションオフィスを使いながら、どのように映画祭から巣立ったクリエイターをサポートしていくか。そんな思いを持ちながら、本日、クリエイター交流会の開催に至ったわけです。第12回を迎える今年の映画祭では、SKIPシティを活動の拠点とし、一昨年『埼玉家族の一編『ハカバノート』を撮った福山功起監督が、オープニング作品として『鉄の子』を発表します。映画祭が作品発表の場だけでなく、創造の場として新たに生まれ変わるプロジェクトにご注目ください」と歩みを振り返りながら、新たなるプロジェクトの製作発表まで結びつけた。

 かつて鋳物の町だった川口を舞台に、子どもの成長を描く『鉄の子』。キャストには、田畑智子、裵ジョンミョンが決定している。主役となる子どもたちのオーディションはこれから。「できる限り川口の人材を登用していきたい」と同作のプロデューサーでもある瀧沢裕二映画祭ディレクターは言う。制作はアルタミラピクチャーズ。盤石な制作体制で臨む。

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 一堂に会したクリエイターらの顔は、熱を帯びているように感じられた。少し過剰な表現かもしれないが、マグマをその体内に湛えた地表のように。古波津陽(『MARS』)、内田伸輝(『えてがみ』)、窪田崇(『きみの秘密、僕のこころ』)、藏原潔司(『太陽の石』)、村上祐介(『カケラ』)、岸建太朗(『未来の記録』)、中野量太(『チチを撮りに』)、奥村盛人(『月の下まで』)、浅沼直也(『Heart Beat』)、多田昌平(『トゥルボウ』)、外山文治(『燦燦-さんさん-』)、福山功起(『埼玉家族/ハカバノート』)、加瀬聡(『埼玉家族/キャンディ』)、角川裕明(『埼玉家族/父親輪舞曲』)、完山京洪(『埼玉家族/ライフワーク』)、金井純一(『転校生』)、中泉裕矢(『母との旅』)ら、出席した監督を代表し、挨拶を行ったのは中野量太。

 中野監督は、『チチを撮りに』を、2012年の同映画祭長篇コンペティション部門に出品。そして日本人初となる監督賞、SKIPシティアワードのダブル受賞を果たした。その後、同作は第63回ベルリン国際映画祭ゼネレーション部門正式招待、第39回シアトル国際映画祭、メルボルン国際映画祭、エルサレム映画祭招待上映と世界をめぐり、第7回グラナダ国際映画祭では審査員特別賞と観客賞、第3回サハリン映画祭では日本人初のグランプリを受賞した。

 「こんにちは。中野量太です。『チチを撮りに』という作品は、ずっと映画を撮ってきましたがなかなか食べていけず、40歳手前に最後の勝負のつもりで借金をして撮った映画です。その後、多くの映画会社に配給のお願いに参りましたが、だれも振り向いてくれませんでした。半年後、そんな『チチを撮りに』を拾ってくださったのがSKIPシティ国際Dシネマ映画祭です。監督賞を受賞し、さらに劇場公開の権利をいただき、それだけでも大満足だったのですが、国際審査員の方に気に入っていただいて、海外の映画祭にもご招待いただきました。僕自身も海外7カ国の映画祭に参加し、イスラエル、台湾では公開までしていただいた。これは僕の予想を遥かに超えたことでした。
 もともとは僕の借金で作った自主映画です。これからも一所懸命、次も、次も撮って行くつもりです。その中で、なぜあなたが映画を撮れるようになったのですか? と聞かれたら、この映画祭が見つけてくれたからと答えようと思っています。最初に見つけてくれ、この機会を与えてくれたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭に感謝しています」

 臨席していた映画祭実行委員会会長である上田清司埼玉県知事、副会長である奥ノ木信夫川口市長ら映画祭関係者全員が胸を熱くしたはず。私も気持ちを込めて拍手を送ったその瞬間、「僕はこれを言うために、受賞監督の代表挨拶に選ばれたんですよね(笑)」と中野監督。気恥ずかしいくらい感動ムードになった場の空気を、さっと平温に戻した。そしてすかさず、「でもそのためにはこの映画祭がずっと存続してもらわないと困ります。かつてあった映画祭に見つけてもらったなんて、僕は言いたくありませんので。この映画祭、僕は大好きです。そろそろお酒が飲みたいです」とぺこりと頭を下げ、クリエイターの輪の中に戻って行った。

 お仕着せを嫌う風潮の中で、ましてやクリエイターがあつらえられたシナリオを好むわけもなく、照れ隠しはあったものの、感謝の気持ちは中野監督の本心なのだろう。

 来賓の挨拶でもその空気は保たれた。

 同映画祭の2013年国際審査委員長を務めた、日本アカデミー賞協会事務局長の富山省吾は、「瀧沢ディレクターの、デジタルの普及の話は、苦労のほどが偲ばれます。しかしあっという間にデジタルは当たり前のものとなり、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭はトップランナーとなりました。誇っていいことだと思います。次はここに集う若いクリエイターをさらなるステップに向かわせること。今日ここには、企画を5合目、8合目まで持って行けそうな人がたくさんいらっしゃる。僕は、なぜこの映画を撮るのかと聞かれたら、次の映画のためだと答えます。『チチを撮りに』も次の一本のための作品。早く次を撮ってください!」と、映画祭と中野監督にエールを贈った。

 続いて、乾杯の音頭を取った東京国際映画祭ディレクタージェネラル、椎名保は、「中野監督の素晴らしい挨拶に、ジーンときました。なぜ東京国際映画祭は(『チチを撮りに』を)選ばなかったのだろう? と(笑)。私はまだ2回しか経験していませんが、映画祭運営は大変なものだとつくづく実感しています。継続は力です。ここまで頑張ってこられたSKIPシティの関係者の皆様に敬意を表したい。そしてなにが羨ましいってまず知事と市長が来ていることです(笑)。素晴らしい。残念ながら都知事は東京国際映画祭に来てくれません。上田知事、我々がこんなに頑張っていることを、舛添さんにお会いになったらぜひお伝えください(笑)。
 映画祭同士は競い合うものではなく、共闘して、才能を発掘し、育てていくものだと思っています。世界に飛び立つクリエイターを育てる。私がディレクタージェネラルになってから海外のディレクターの方々をお呼びして交流会を開いています。そこに、ここに集うクリエイターの皆さんにもぜひ参加していただきたい。映画は見てもらわなければだめだと思う。見ることでお互いの文化も分かるし、役者、監督の力量が分かる。SKIPで選ばれた作品はぜひ東京国際映画祭でも上映させてほしい。日本の方はもちろんですが、海外の方にも日本映画を見て欲しいんです。そのためには私の権限でなんでもやらせていただこうと思っています(拍手)。それでは2015年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の成功と、ここに集まった若きクリエイターの将来が素晴らしいものとなることを祈念しまして、乾杯のご挨拶とさせていただきます」と、特別純米無ろ過原酒「秩父錦」を飲み干した。

 創造、経済、イデオロギーなど様々な思いが錯綜する映画祭。それがどの国で開催される、どんな規模の映画祭であったとしても、パーフェクトに運営され、クリエイターや関係者が心から満足を覚えるものはなかなかないだろう。しかし、まずなにを目指しているのか目標がはっきりするだけでも、そこに関係する人々の気持ちのブレは少なく、方向を見失いづらくなるものだ。

 今年は、7月18日(土)~26日(日)まで開催される第12回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭。どのような一幕をその歴史に刻むか楽しみだ。