mono-logue

2014年11月11日 19:02

 

第27回東京国際映画祭草紙 その2

文/河西隆之

Yellow Fangが奏でる瑞々しさを失った青春が行き着く先
『タン・ウォン~願掛けのダンス』

 青春にはいつだって"瑞々しい"がつきまとう。枯れた青春なんてない。三省堂の大辞林によると"瑞々しい"とは「若々しく新鮮である」ということらしい。青春における新鮮とは、純粋であり、無垢であり、そしてナイーブ(=世間知らず)であることと同意義といってもいいだろう。では瑞々しさを失った青春が行き着く先にはなにがあるのだろうか。

 東京国際映画祭「CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ」で上映されたコンデート・ジャトゥランラッサミー監督の『タン・ウォン~願掛けのダンス』は、言うなれば青春における瑞々しさの喪失を描いた傑作だ。神様に願掛けをしたことがきっかけで、お礼参りとしてタイ伝統舞踊を舞うことになった4人の高校生の成長を、タイの若者文化や政治情勢を交えつつ見事にとらえている。

 作品解説によると、本作はタイ・アカデミー賞2014で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀助演男優賞の4賞を受賞したとのこと。せっかくだからとノミネートされた賞も調べてみたところ、最優秀撮影賞、最優秀美術賞など多くの賞にノミネートされていたのだが、ベストスコア賞のところで眼が止まった。クレジットされていたのはChaibundit PeuchponsubとApichai Tragoonpadetgrai、そしてYellow Fangだった。

 観賞中、気になっていたのだ。舞踊の練習中に毎回かかるオフビートな楽曲を奏でているのは誰かと。新鮮でありつつも、なんだか郷愁を誘うメロディに乗る英語ではないなにか(後にタイ語だとわかったが)に心が奪われてしまっていた。米Rocketshipや英RAZORCUTS、仏Au Revoir Simone、日BAFFALO DAUGHTERを彷彿とさせつつ、どこか尖った部分も併せ持つガールズバンド。それがYellow Fangだった。

 実は彼女たちは2012年、2013年にロック・フェスティバル、サマーソニックに出演している。その際に掲載されたプロフィールでは、――タイの名門チュラロンコーン大学芸術学部の同級生ペーン(vo,g)、プイ(b)に後輩のプレー(ds)が加わり、結成された3ピースガールズロックバンド――だと紹介されている。同じく「CROSSCUT ASIA #01 魅惑のタイ」で上映された『36のシーン』の主題歌にYellow Fangの「True Blue」が起用されていることから、タイのクリエイターから熱い支持を受けているのは確実だ。ちなみに最近行われたインタビュー記事では影響を受けたアーティストとして、The Velvet Undergroundや、同じタイのバンド、Death Of A Salesmanの名を挙げている。

 劇中、Yellow Fangの楽曲は常に舞踊の練習中にかかる。屋上で行われた最初の練習時には「I'm a Feeder」が、一旦諦めかけた高校生がもう一度踊りに挑戦した時には「Unreal」が、そして初めて衣装を着た際には「Blanket」が流れていた。伝統舞踊に挑戦する主人公たちの背景に流れるのがYellow Fangとは、なんとも妙だが、ジャトゥランラッサミー監督は以前、インタビューにて本作を「タイ文化とは何かを探る作品」だと紹介していることから、現在のタイが抱える新旧カルチャーの混在、混沌さを訴えたかったのだろう。

 Yellow Fangは「Unreal」で次のように歌う――みつけようともがくけれど、そこに真実はない。ただひとつ分かったことは理解しようと努めること――。タイ語には不慣れなので訳は大意ではあるものの、「Unreal」は本作の核心を突いている。物語終盤、どうにもならないことに直面した主人公たちはもがき、苦しむけれど、真実=答えはどこにもない。それでも状況を理解し、折り合いをつけ、自分を納得させて前に進みだすのだ。それは"世間知らず"の高校生が、社会性を得て"瑞々しさ"を失い、青春の終焉へと歩き出すかのようでもある。

 紹介したYellow Fangの楽曲はすべて最新アルバム「The Greatest」に収録されている。iTunes Storeでも購入可能なので、気になる方はぜひ。