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2014年3月12日 12:46

 

第9回大阪アジアン映画祭に見た
フィリピン映画の台頭とその理由

文/河西隆之

oaff_blu.jpg日本への出稼ぎ労働者の姿をコミカルに描いた『ブルー・ブースタマーンティー』のポスター
 第9回大阪アジアン映画祭が7日(金)に開幕した。今年は台湾文化部の協賛、台北駐日経済文化代表処・台北文化センターの協力もあり、大規模特集「台湾:電影ルネッサンス2014」や「小特集:台湾語映画、そして日本」が企画されているほか、台湾映画『KANO』がオープニングを飾るなど、台湾色の強い映画祭となっている。

 しかし、上映プログラムをしっかりチェックしている人ならばフィリピン映画の勢いに気がつくはずだ。上映本数を確認してみると、コンペティション部門に『アニタのラスト・チャチャ』『もしもあの時』『シフト』の3本、特別招待作品部門に『ブルー・ブースタマーンティー』『インスタント・マミー』の2本と計5本がエントリーされているのが分かる。特にコンペティション部門は全11本中の3本というだけあり、かなりの存在感だ。台湾映画特集の影に隠れてしまって気付きにくいが、この台頭を見るに今年の裏特集はフィリピン映画と言ってもいいのかもしれない。

 プログラミング・ディレクターを務める暉峻創三氏にプログラミング(作品選定)時の状況を伺うことできた。「プログラミングをしている最中にフィリピン映画をフィーチャーしようという気持ちは全くなかったんですよ。でも、締め切りギリギリに届いたフィリピン映画の出来がことごとくよかった。コンペティション部門は通常約10本ほどなんですが、出来だけで判断すると10本のうち5本がフィリピン映画になりかねない状況だったんです。そこで台湾映画で企画した特集のようなはっきりとした見せ方とは逆に、影の特集みたいな見せ方もあると思い、枠を超えて自然と注目されるような形に振り分けていったんです。ただ、フィリピン映画が勢いづいていることに気がついてもらいたいとは思っていて、公式パンフレット等で少し触れてはいるんですよ」。パンフレットを読み込んでいる方であればお気づきだと思うが、暉峻氏は公式パンフレットの序文で「フィリピン映画の前例のない存在感に特にご注目を」と述べている。

 しかしフィリピン映画はなぜここまで台頭してきたのだろうか。暉峻氏はフィリピンの映画祭システムの影響をひとつの要因として挙げてくれた。「アジアで知っている限りでは、フィリピンだけにある有効な映画祭のあり方だと思うんですが、フィリピンの映画祭では企画を公募して、選ばれた企画に製作費を出資する制度を採用しているんです。普通の映画祭であれば完成された映画を募集して上映することになるわけですが、フィリピンでは違うんですね。世界的にも珍しい形態だと思います。シネマラヤ映画祭(Cinemalaya Philippine Independent Film Festival)が先駆けてその制度を採用し、他の映画祭も追随してきています。そのため、映画祭が出資した製作費で作られる映画が近年すごく増えてきているんですよ。去年はおよそ50本ほどの作品が映画祭の出資によって作られたんではないでしょうか」。

oaff_shift.jpg多彩な愛の形をスタイリッシュに描いた『シフト』のポスター
 暉峻氏の指摘通り、今回上映される5本のフィリピン映画すべてが映画祭からの出資を受けて製作されている。『もしもあの時』『インスタント・マミー』は2013年の第9回シネマラヤ映画祭に選出され、製作費として各50万フィリピン・ペソを獲得した。シネマラヤ映画祭はフィリピンのインディペンデント映画祭のなかでも一目置かれており、上映された作品はシネマラヤ・ブランドとして認知され、質の高い作品として一定の評価を得ている。昨年、同映画祭のヴァイスプレジデント、およびコンペティション部門のディレクターを務めるLaurice Guillenさんに出品作品の権利について尋ねたところ、シネマラヤは2年間の配給権を持つが、著作権は製作者側が持つことになるので、製作へのモチベーションを高く保つことができると明かしてくれた。

 そのほか、フィリピンの最大手ネットワークABS-CBNが抱えるケーブル局のCinema Oneが運営するインディペンデント・デジタル映画祭Cinema One Originals Film Festivalから資金を調達したのは『ブルー・ブースタマーンティー』と『シフト』の2本。それぞれ200万フィリピン・ペソ、100万フィリピン・ペソの製作費を手にした。『アニタのラスト・チャチャ』は昨年始まったばかりのCinefilipino Film Festivalの長編部門に選出され、150万フィリピン・ペソの出資を受けている。

 まずは企画ありきで始まるフィリピンのインディペンデント映画。製作費に縛られないところからスタートするためか、ジャンルも多岐にわたるようだ。暉峻氏はプログラミング時にそのことを痛感したという。「作品を選んでいるとものすごい数の映画を見なくてはいけないんですが、国によってある程度似たような作品が出てきてしまうんですね。でも、フィリピン映画は素材の幅の広さでも印象に残っていて、見ていて飽きることがないんですよ。特に前衛的なこととか風変わりなこととかをやろうとしているわけはなないんですけども、(『ブルー・ブースタマーンティー』では)フィリピンの出稼ぎ労働者が日本の戦隊ヒーローのスーツアクターをやるなんて、ありそうで誰も思いつかなかったネタだと思うんですよね。うまいこと考えたと思います」。

 今回上映される5本も非常にバラエティに富んでいる。閉幕は16日(日)。今からでも遅くない。今年の大阪アジアン映画祭ではメインの台湾特集はもちろん、"裏特集"も楽しんでみてはいかがだろう。