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2013年3月25日 06:32

 

【第8回大阪アジアン映画祭】
"FEEL GOOD"なタイ映画のゆくえ

文/須見登志美
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 3月8日(金)から17日(日)まで大阪で開催された第8回大阪アジアン映画祭。
 コンペティション部門に出品されたタイ映画『ATMエラー』は、2012年のタイ映画の興行成績で『アベンジャーズ』『トワイライト・サーガ ブレイキング・ドーン Part2』に次ぐ第3位を獲得。500万ドル以上を稼ぎだして、製作を行ったGTH社(GMM Tai Hub Co., Ltd)において過去最もヒットした作品となった。

 映画は、社内恋愛禁止の日系の銀行で隠れて交際を続けるスア(チャンタウィット・タナセーウィー)とチップ(プリーチャヤー・ポンタンー二コン)が結婚を決意。しかしどちらが退職するかで決着がつかない。そんなとき、ATMから多額の現金流出するトラブルが発生。これをどちらが先に解決できるか賭けをし、負けた方が退職することに。負けたくない二人が相手を出し抜こうと、バンコクとチョンブリー県を舞台にバトルを繰り広げる、ギャグ満載のラブコメディだ。

 映画祭のために来阪中のメート・タラートン監督と、GTH社のプロデューザー、ヨンユット・トンコントーン氏にヒットの要因などをうかがった。

タラートン監督:「いろいろな要因が考えられますが、ひとつには公開のタイミングがよかったことがあります。この作品は当初2011年の11月に公開予定でした。しかし洪水が起きたことで、公開を2012年の1月に変更したんです。11月、12月はみんな外に出られなかったので、『さあ、楽しもう新年!』という気持ちになった1月の公開はちょうどいいタイミングだったと思います」。

トンコントーン氏:「ちょうどチャイニーズ・ニューイヤーにも重なりましたし。それと、ヒットのもうひとつの要素としては内容にあると思います。この映画は性別、世代、社会的な階層を超え、会社員から家族まで、みんなが見られるタイプの映画です。グループで見にいけるんですよ。誰でも楽しめるから、口コミでどんどん広がっていきました。普通の人の生活の身近な内容ですし、何よりジョークがよかったと思うんです。監督には、世代を超え、性別を超え、どんな階層の人にも受けるギャグを作れる才能があるんです!」。

 映画に使われたギャグの多くが監督自身の実体験で、中には「普段から考えていても、実際には恥ずかしくて実行に移せなかったことを役者にやらせた」りしたらしい。

 恥ずかしくて実行に移せなかったギャグってなんだろう? えー、チョンブリーの若い男の子が、恋人にハートを投げる、アレ、ですか? 
「内心、女の子を口説くときに、こうやってみたら、面白いな、かわいいな、と思って」とタラートン監督。なんてロマンチストなの。それギャグじゃなくて、本気じゃないですか(笑)

 たしかにいろいろなギャグやジョークが散りばめられていて、日本人の私が見ても笑いっぱなしだったのだが、ひとつわからなかったのは、一人暮らしのおじさんが納屋で飼っていたワニの存在。何故ここにワニ!? という唐突さを感じたのだが......。

タラートン監督:「タイにはワニを家で飼う人が実際にいるんです。タイ人の一部、特に中華系のタイ人には、家でワニを飼うと自分の威信が増す、という迷信があります。タイのお金持ちの家にはワニを飼う池が作ってあったりするんですよ。ワニを飼うことで、自分の運命や威信がさらに強くなると信じられているんですね。映画に出てくる彼は、タイの地方出身の貧しい人だったので、お金を手にした瞬間、『ワニを買おう!』と思ったわけです。本当はあんまり意味が無いことですけどね(笑)」。

ATM_2.jpg 『ATMエラー』 (c)2012-GMMTAIHUB
 なるほど、そういうことだったんですね(納得)。映画に登場するものには、何でもちゃんと理由と役割があるそうです。ちなみに、2人が乗っている車がフォードなのは、主演のチャンタウィットさんがフォードのCMキャラクターを勤めている関係から。フォードのショールームでは『ATMエラー』のトレイラーを流し、映画のプロモーションにも一役買かったようです。

 主人公の2人が勤めている銀行はバンコクにあるが、ATMのシステムエラー騒動が起きるのはバンコクから車で2時間ほどの海辺のリゾート地チョンブリー。ここはタイのプロサッカーリーグの強豪、チョンブリーFCの本拠地でもある。チョンブリーFCにはタイ人だけでなく日本やヨーロッパの選手も所属している。なんと15日の上映には、背番号22番の日本人選手のご家族が見に来ていて、上映終了後のサイン会の際、監督は直接、「チョンブリーでプレーしている弟が3秒ほど画面に写っていた」と言われて驚いたとのこと。そう、あのサッカー場のシーンに出てくるのは本物のチョンブリーFCの選手たち。はっきりと写っていたのはタイでも有名選手達のようです。

 今回の映画祭では、コンペティション部門でのノミネートとは別に、「GTHの7年ちょい ~タイ映画の新たな奇跡」と題した特集企画が組まれており、「ATMエラー」を含む計7本のGTH作品が上映された。タイ国内で"FEEL GOOD"と呼ばれる独自ジャンルの作品を生み出しヒットさせてきたGTHは、どんなふうに映画のプロモーションを行っているのだろう。

ヨンユット氏:「(前述のフォードのように、)いろいろなパターンでタイアップキャンペーンイベントを行います。が、映画の宣伝は、大きく分けると、映画館、TV、そしてソーシャルメディアの3つです。基本的はプロモーションは日本と似ていますが、GTHで特に力をいれているのがソーシャルメディアです。GTHのFacebookは、「いいね!」が120万人を超えました。だからそこにお知らせを載せると、だいたい(ターゲットに)行きわたるんですよ。それから、LINEの公式アカウントもあります。タイの映画会社で初めてです。LINEサイドから、『公式アカウントになりませんか?』と誘われたでのやってみました。こちらの登録も現在60万人を超えています。」
 スマートフォンを駆使し、LINEとFacebookの両刀使いで友人とコミュニケーションを取るタイの若者に、訴求させる手段としてSNSの活用は最適であることに間違いない。

 さらにヨンユット氏は「今、事業としては、映画とテレビチャンネルの2本柱で考えています。GTHはPLAY CHANNELというケーブルテレビのチャンネルを持っておりますので、テレビドラマシリーズに力を入れていきたいのです。もちろん映画は撮り続けるのですが、クオリティを重視して1年に3、4本を製作する予定です。これからは、日本のエンタメ事業モデルのように、一つのコンテンツから様々なコンテンツに展開させることを目指したいんです。せっかく2、3年かけて考えたアイディアを、映画興行の収益だけで終わらせてはもったいないですからね。今後はいろいろなメディアで製作をしていきたいと思っています」と、8年目を迎えるGTHの方針を語った。

 早速、記録的なヒットとなった『ATMエラー』は、現在12回のシリーズとしてドラマ化の企画が進行している。バトルを乗り超えてゴールインしたスアとチップの新婚生活を描く続編となるのだそうで、PLAY CHANNELで年内に放送予定とのこと。ドラマだと映画祭での上映はないと思うので、残念だが見ることはできなさそうだが、どんなストーリーになるのか楽しみではある。これまでの成功をどのように発展させていくのか。GTH作品から目が離せない。