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2013年1月11日 17:21

 

日本発'ANIME'
米でのビジネスはどこまで本格化したのか?
インタビュー FUNimation副社長アダム・ゼナー

文/石橋朋子

P10400141.jpg 米ANIME配給会社FUNimation
アダム・ゼナー副社長
 日本のコンテンツやポップカルチャーを世界に広めるイニシアティブ「クール・ジャパン」が2009年に経済産業省によって掲げられ、日本製コンテンツの海外進出は加速されるかに見えた。しかし実情は、まだ言葉だけが一人歩きしているような状態だ。そこで日本製コンテンツの中でも最も世界に受け入れられ、海外進出が見込める"ANIME(日本製アニメーションの愛称)"の状況について、米配給会社FUNimationの副社長アダム・ゼナー氏に話をうかがった。

 1994年に設立されたFUNimation Entertainentは、98年からTVアニメ「ドラゴンボール」を米カートゥーン・ネットワークで放映し、アメリカの一般家庭に日本のアニメーションを浸透させることに貢献した。以降、テレビ、劇場、インターネット、DVDといった各種メディアを通し、アニメの配給を行っている。

世の中の動きと連動する
FUNimationのビジネス

FUNimation2.jpg FUNimationのサイト

――現在アメリカで日本アニメの配給を行っているのは、もうFUNimationくらいだ、という話を聞きましたが?

アダム・ゼナー氏(以下):そんなことはありませんよ(笑)。他にもまだ何社か残っています。たとえば、ウォルト・ディズニーは宮崎駿(およびスタジオジブリ)作品を配給していますし、VIZ Mediaも「NARUTO -ナルト-」をはじめとする数々の作品を配給しています。ほかにもSentai Filmworksとか。ソニー・ピクチャーズやワーナー・ブラザースも場合によってはアニメを配給していますしね。ただ、弊社が他社と違っている点は、ファンの動きに常に目を配っていることではないでしょうか。最大のプロポーザーはファンですから、社内にソーシャル・ネットワーキング・サイトを通じてファンとコミュニケーションをとることを専門とする部署を複数設けています。また自社で配給を行っていますので、マーケティングの中心となる人間が、弊社で取り扱うすべての作品に、共通したメッセージ性や興味を持たせられるよう、クオリティ・コントロールを行っています。というのも、今の世の中、人々は新聞広告といったものを信用しません。信用するのは口コミの評判のみです。ただし、それにはまず我々自身が、配給する作品を心から信じていなければなりません。アメリカでは、より活力に満ちあふれたコンテンツがウケるのです。質がよく、物語が素晴らしい――そういった作品を生み出す才能ある人が日本にはたくさんいます。彼らが生み出す作品を世界中の人たちに見て欲しいのです。そして、(見た人には)どう思ったかをほかの人に伝えて欲しい。

――では、今の世の中の動きはFUNimationの理念にぴったりですね。

: そうなんです。ファンが口コミで広げてくれるので、本当に幸運だと常に話しています。ただひとつ問題があって、人というのは、作品を気に入った時には数十人に触れ込みますが、気に入らなかった時には数百人に触れ込むものなんです(笑)。でも、すでに草の根的に固められた地盤がありますから、我々が信じているコンテンツを持ってくれば気に入ってもらえます。そういうファンからの支持があるからこそ、厳しい景気の中でも生き延びていられるのだと思っています。経済が悪化しているのはアメリカだけではありません。日本もそうです。日本国内でのアニメの制作本数は、ここ数年は減少傾向にありました。今はまた増えつつありますが。

日本のアニメ・コンテンツの変化と
海外とのテイストの違い

: 日本では数年前に「萌え」という言葉が流行りましたが、このあたりで日本のテイストと海外のテイストが分岐したと思います。「萌え」は海外では日本のようにはウケません。また、日本では女性ファンもDVDを購入しますが、アメリカでは女性ファンはアニメをインターネットで観賞し、DVDを購入する方はわずかです。ですから日本では女性ファンをターゲットとしているDVDには、アメリカではビジネスにならないものもあります。

――少女漫画はどうですか?

: 少女漫画はポテンシャルはあると思います。ただ、ヒットする可能性は低いでしょう。しかしながら、Huluや広告入りビデオ・オン・デマンド(VOD)といった新しい視聴形態が登場したことによって、なかにはアメリカでも女性ファン向けとなるものもあると思います。いずれにしても少女漫画はテレビ向きではありません。

 インターネットとSNSの活用によって不況を乗り越えようとしているFUNimationだが、インターネット上では海賊版にも悩まされた時期があった。訴訟も相次ぎ、閉鎖に追い込まれた会社を横目に見てきた同社は、今、海賊版についてどう見ているのだろうか。

: たしかに海賊版は大きな問題です。心配していないと言えば嘘になります。しかし、つまるところファンはより多くのコンテンツが視聴可能になることを望んでいる。そのように期待するしかありません。より多くのコンテンツを視聴可能にするためには、合法的にサポートするしかないのです。なぜならアメリカだけでなく日本でもDVDの売上は落ちていますので、制作会社は多くのコンテンツを作ることができなくなっています。ですから、最終的には新しいコンテンツへの飢餓感が、海賊版コンテンツを無料で見ることへの欲求より勝り、ファンたちはHuluやFunimation.comといった正規のルートから合法的な視聴や購入をするだろうと期待するほかありません。そうなることで、クリエイターたちにお返しをすることが出来、次の作品へとつながります。

北米市場でのアニメーションの状況

: 面白いことに、"ANIME"はファン層が増えてきている市場です。各地で開催されるコンベンションへの参加者も年々増えていますし、HuluやNetflix、FUNimation.comとったサイトからのストリーミング数も増えています。ですからアニメの人気は上昇していると見ていますし、それが経済の回復であるとも言えます。より多くの人々がアニメ業界をサポートするためにお金を費やし、DVDやTシャツ、デジタル・グッズを購入してくれることを望んでいます。

――それはアメリカ国内でのファン層ということでしょうか?

: そうです。それとカナダ、イギリス、オーストラリアでも同じくファン層は増えています。ニューヨーク・コミコンの過去3年間の参加者数の増加は目を見張るものがあります。アニメ・エキスポへの参加者も増えています。現在アメリカ国内では、年間100を超えるアニメ・コンベンションが開催されています。また、インターネットでのコンテンツ配信数も毎月上昇しています。つまり、多くの人々がコンテンツに触れているということです。ひとつのコンテンツを気に入ったら、またウェブサイトを訪れて、より多くのコンテンツを見る。ですから、我々はファンが望むコンテンツを探す、さらなる努力をしなければなりません。

――先ほど、日本でのコンテンツ制作本数が減り、また再び増えつつあるとおっしゃいましたが、この現象にはどんな背景があると思われますか?

: 日本の状況については私は専門家ではないのでよくわかりませんが、収入源の問題であるという印象を受けています。アメリカでもそうですが、テレビの広告収入は減少しています。ですから低予算で制作できるバラエティ番組がより多く作られるようになり、さらにそれで視聴率も取れている。そこで、この2年ほどは以前よりも制作されるテレビアニメの本数は減っていました。ところが、今は制作会社が違ったビジネスモデルを見つけているという印象を受けます。たとえば劇場での限定公開や、以前はアニメコンテンツに興味がなかったケーブルTV局がアニメをサポートするようになったこと。また、インターネットでも5年ほど前に比べて電子コミックとアニメがより融合されてきています。アニメ業界は、従来のビジネスモデルがうまくいかなくなった時に打撃を受けましたが、そこで出来ることは、制作本数を減らし、新しいモデルを開拓することだったと思います。そして新しいモデルが見えてきたため、制作本数はまた増えて来ているのではないでしょうか。

コンテンツの海外展開についての
日本の取り組みと問題点

――日本政府は、All Nippon Entertainment Works(ANEW)という産業革新機構が設立した新組織を核に、日本のコンテンツを海外に展開することを推進していますが、それについてはどう思われますか?

: 彼らとはすでに何度か話をしています。これは大変重要な一歩だと思います。私は長い間日本に住んでいましたので、日本人ではありませんが心の半分は日本人だと感じていますし、日本のエンタテインメント業界がうまくいってくれることを願っています。日本にはクリエイティブな才能にあふれる人たちが大勢います。彼らにどういったことがしたいかとたずねると、みんなやりたい企画を持っていますが、資金集めが大変です。日本国内で成功している例を見ると、多くの場合、テレビシリーズから始まり、劇場版が制作されます。これが日本でのビジネスモデルです。でも残念ながらこれは海外ではうまくいきません。日本の市場を将来的に大きくする方法を考えついた時こそ、次世代の才能あるクリエイターを孵化させ、(世界に)羽ばたかせることができるのではないでしょうか。政府の助成金などがあれば、外の世界へ出て行く意志があり、国内のシステムで成功する枠に留まらない映画を作る野心を持つ人々をサポートすることができるでしょう。我々は海外の市場を良く理解していますし、日本から発信されるコンテンツがどのようにアメリカの人々に受け入れられるかを国際的な連携の下で理解することができます。すでに何回かの話し合いで我々の考えをお話していますし、政府が次世代の映画に対して積極的に取り組んでいる姿勢を見ることができるのは素晴らしいことだと思います

――現時点でなにか目に見えた変化はありますか?

: まだ時期尚早だと思います。1年か1年半後に公開される映画あたりがどうなるか、ということに興味がありますね。その頃には今の努力がどう実っているか、明快にわかるのではないでしょうか。こういった新しい企画を始めるとき、人はすぐ結果を見たがるものです。結果を見なければ、取り組みの意図はわかりませんから。我々のような会社は新しい企画を市場に出す場合のリスクを大幅に軽減する手助けをすることができますので、一緒に企画を進めることを提案しますね。実は、新しいファンドが始まる時、大会社が関わることによって、ファンドの規模にそぐわないリスクを抱えることがあります。我々はそこを心配しています。

――大会社とは?

: 例えば200~400万ドルもあれば制作できる"ANIME"もありますよね。しかしハリウッドの会社は平気で6000万ドルの企画を持ちかけたりすることもあるのです。1作品に6000万ドルもかけてしまうと、リクープするのが難しくなります。そういった大きなバジェットの作品を作る前に、市場をより理解することも必要です。また意味のある企画を選んで欲しいとも思っていますし、あまりリスクを負わずにすむ、小さな成功を積み上げていって欲しいと思います。

――これまでも日本政府はコンテンツ事業の後押しをしようとしていましたが、大きな成果をあげられないのは、どこに問題があるとお考えですか?

: それは面白い質問ですね。この質問にお答えするにはもっと政府の取り組みについて学ばなければならないと思いますが、より一般的なレベルで考えられることは、問題点のひとつとして、日本では国内市場で満足している風潮があるということでしょうか。海外市場は日本にとってアイスクリームのトッピングでしかないのです。ただ、日本での人口が減少した時、制作会社にとって海外市場がより重要になってきます。そこで市場価値を高めるために海外市場をよりよく理解する努力をする必要があるということかも知れません。アメリカのスタジオは、日本人が持つ技術や創造性を学びたいと思っています。だからもし日本の制作会社の技術を新しい世代に紹介すれば、何百万人という規模の大衆にアプローチすることが出来るはずです。過去の失敗の経験から、という話はできませんが、日本が改善するべき点はそういったことではないかと思います。

"ANIME"はアメリカの
普遍的コンテンツとなりうるか?

――海外での"ANIME"の愛好者はOTAKUというイメージがありますが、大衆向けにアプローチすることはできるのでしょうか?

: もちろんです。「ドラゴンボール」のテレビアニメはアメリカでも大衆に受け入れられました。「ポケモン」や「遊戯王」「爆丸 BAKUGAN」もそうです。大衆に広げることはできますよ。

――子ども向けの作品のほうが大衆に受け入れられやすいということですか?

: アメリカで見られる現象としてあげられるのは、子どもは成長するということです。「ドラゴンボール」は現在でもほかのどのアニメよりも高いDVDの売上をあげています。これはかつてテレビアニメを見ていたファン層が成長し、自分の子どもためにDVDを購入しているからです。作品が色あせることはありません。成長して18~34歳層に入るようになったかつての「ドラゴンボール」ファンたちは、今は別のコンテンツに飢えている。そこで我々はサミュエル・L・ジャクソンとルーシー・リューが声の出演を担当した「アフロ・サムライ」というアニメを共同制作しましたが、これは大衆にウケました。大衆にウケるためには、制作会社がOTAKU層を抜けられるコンテンツを作ることに焦点を当てなければなりません。OTAKUは、忠実なファン層ですし、真っ先にコンテンツを見て友人に話してくれる、素晴らしい存在です。でもYouTubeやhuluにおける各コンテンツの視聴数は多くはありません。インターネット上で大ヒットさせることは可能ですから、そういう作品を作るためには、大衆にウケるコンテンツを提供することに照準を絞る必要があります。

――ハリウッドで制作された実写映画『DRAGONBALL EVOLUTION』や『ATOM アトム』は大衆向けであったにもかかわらず、興行的には残念な結果でした。

: 一体なにが起こったのか実態を把握しているわけではありませんが、少なくとももう少しコンテンツとファンを理解している制作会社が作ったほうがよかった気がします。我々は「ドラゴンボール」のことは知り尽くしていますが、あの作品がオリジナルのシリーズやストーリーに忠実だったとは思いません。

――コンテンツに対するファン心理を無視していたと......。

: あくまでも私個人の意見です。すでに大衆にウケることは証明されているわけですから、あえて(内容を)変える必要はなかったのではないでしょうか。全世界でウケる物語なのです。彼らにはそれを変える理由があったのでしょうが。

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 石橋さんによるこのインタビューが行われたのは、2012年のAFMの会期中。その後も"ANIME"市場には、様々な変化やプロジェクトが起きている。文中に登場したANEWも12月19日、『ターミネーター』プロデューサーのゲイル・アン・ハードのプロダクションValhalla Entertainmentとともに、東映アニメ初のオリジナルロボットアニメ『ガイキング』をハリウッドで実写映画化するための企画開発をスタートさせたことを発表した。今後もLAからのレポートを掲載していきたいと思う(AvantiPress)。